1-1 真夏の日本橋を出発2012/10/09 01:04

第一章 旅のはじまり、品川宿へ

<登場人物>
 旅人「き」:きんのじ
 旅人「お」:おさべえ

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<目次(リンク)>
 1.真夏の日本橋を出発
  http://o-chan.asablo.jp/blog/2012/10/09/6597410
 2.幹線道路にある東京の史跡へ
  http://o-chan.asablo.jp/blog/2012/10/09/6597409
 3.最初の宿場、品川宿へ
  http://o-chan.asablo.jp/blog/2012/10/09/6597402

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1.真夏の日本橋を出発

 夏。1年で最も躍動感に満ちあふれた季節。空からはまばゆいばかりの日差しが注ぎ、その日差しを受けると、ジリジリと焼けてきそうなほどの強さ。誰しもが、木陰や建物の中に避難してしまいたくなるような季節。
 ビルの間でひっそりと育つ木々では、地中の長いくらしからようやく解き放たれ、地上に出てきたセミ達が、たった1週間の寿命をものともせず、たくましく鳴いている。

 東京は日本橋。江戸時代から続く「道」の出発点。日本橋川を渡る由緒ある橋である。橋の頭上には首都高速が通り、日本橋川にふたをしている。このため、優美な日本橋全景を見渡すことが難しくなっている。この、世の恥とも言えるふたの下に、男達は立っていた。
【き】「暑い・・・」
一人の男が言う。それほど暑い8月の昼下がり。誰もがうだっている中、じっと銀座方面を見つめている。日差しは直射。
【お】「暑いけど、行きますか。」
 この男達の名は「きんのじ」と「おさべえ」。東海道を京都へ向けて歩き出そうとしている、自称「弥次喜多」である。東京の日本橋から京都の三条大橋まで、約500キロ弱。長い旅の始まりである。
【き】「さあ、おさべえ、第一歩をふみだそう。」
きんのじのこの一言で、二人は日本橋を出発した。東海道は、ここからしばらくの間は、日本でも随一の繁華街、日本橋~銀座の中央通りとなって西へ進む。現代の道路標記で言うと、第一京浜つまり国道15号線となる。
【き】「それにしても、人が多いな。」
【お】「そりゃそうさ、きんのじ。この通りは中央通り。日本橋から銀座という、随一の繁華街を通るんだからさ。」
【き】「随一というと、やっぱり日本随一かね。」
【お】「そうだろうね。都内でも地方でも、その土地で最も栄えている繁華街を指して、○○銀座と呼ぶことがあるだろう。なら、ここは銀座。日本で最も栄えているっちゅーことになるんじゃないか。」
【き】「うーん。少々強引だが、まあ、まんざら間違いじゃないだろうね。」
 日本橋から京橋へ。京橋あたりでは商業ビルが多く、少し落ち着いた町並みとなり、一旦人通りが少なくなる。それもつかの間。再び人が増えてくると、そこは銀座。現在の東海道は、銀座中央通りとなり、多くの人で賑わう繁華街を貫く。直射日光を受けながら、多くの買い物客に紛れて銀座を進む二人。
【き】「それにしても暑いな。太陽が正面からどいてくれないよ。」
正面から夏の強い日差しを受け、きんのじが嘆く。
【お】「確かに。京を目指すというよりは、太陽を目指して歩いているといった感じだな、こりゃ。」
おさべえも嘆く。
この時、二人はまだ気づいていなかったが、太陽は東から昇って西へ沈む。東海道は西へ向かうとよく言われるが、日本列島の位置と東海道のルートを地図で見ると、東海道を横切るように太陽が移動する。つまり、日本橋から京都を目指した場合、常に正面に太陽があることになる。

 さて、旅人は足早に銀座を過ぎる。首都高速の陸橋が見えてくると、人通りが急に少なくなる。やがて、広い交差点に出ると道幅が広がる。そこは新橋。”汽笛一声新橋の~♪”で始まる鉄道唱歌にも唄われている、鉄道発祥の地である。
 最初に鉄道が走ったのは、明治5年(1872年)、新橋(旧汐留貨物駅)から横浜(現桜木町駅)の間である。そして、今は街道名と同じ名称の「東海道線」の一部となっている(正確には、横浜~桜木町間は根岸線)。
【き】「おお、新橋だ。ずいぶんと変わったなぁ。」
きんのじは、目の前にそびえ立つ汐留のビル群をみて、しみじみと言った。
【お】「汐留シオサイトが出来て、新橋も変わったよ。今は、老若男女、いろいろな人が集う場所になったしな。」
おさべえが答える。
 第一京浜(国道15号)、つまり東海道を京へ向かって歩いていると、左側に高層ビル群が現れる。これが汐留シオサイト。もともとは汐留貨物ターミナルであったが、今では再開発によって、一大商業エリアとなった。
 この高層ビル群の一角に、鉄道が開通した当時の駅舎が当時の場所に正確に復元されている。0キロポストや当時の遺構もあり、鉄道好きならず、ちょっと興味の引くところである。
 旅人二人は、そんなものがあることも知らず、暑さと戦いながら歩き続けた。
【お】「きんのじ、そろそろ休憩しないか。」
【き】「もう休憩?はやいなー。」
【お】「なにいってる、日本橋から新橋まで、休みなしだぞ。」
【き】「しょーがない。ビルの陰で少し休むか。」
 日本橋から新橋へ。地図上で見てもそれほどの距離ではないのだが、この日の暑さと、はじめての試みでもあり、体力の消耗が早い。
【き】「なあ、おさべえ。腹減らないか。」
【お】「ええ、もう減ったんか。歩き始めてそれほど経っていないぞ。」
と言った矢先、おさべえの腹の虫が鳴いた。
【き】「休憩がてら、蕎麦でもどうだ。」
【お】「そういえば、昼食はまだだったな。」
【き】「そうさ。ちょっと遅いけど、近くの蕎麦やでどうだい。」
【お】「いいねー。そうしよう。」
遅い朝食の後に日本橋へ出てきた二人は、もちろん昼食をとっていない。夏の暑さも手伝って、思った以上に腹が減っていた。
【お】「近くの蕎麦やって、この辺りに良い蕎麦やでもあるのかい、きんのじ。」
【き】「ん、いや、新橋駅のガード近くにある立ち食い蕎麦やさ。」
【お】「なんだ、立ち食い蕎麦か。もっと立派な蕎麦やでもあるのかと思ったよ。でもまあ、安くて手軽だな。」
確かに蕎麦。おさべえは立派な店構えの蕎麦やを想像していたので少々拍子抜けをしたが、安くて手頃なのは確かだった。
 昼食を終えた旅人二人は、再び京を目指した東海道の旅を再開した。といっても、まだ新橋。先はかなり長い。さて、本日の目標は・・・。
【お】「ところできんのじ。今日はどこまで行く?」
【き】「時間的にも体力的にもそれほどいけないだろう。まずは品川宿までを目指そうか。」
【お】「品川宿か。東海道最初の宿場。目標としてはわかりやすいな。よし、品川宿を目指そう。」
【き】「だな。そんじゃ、早速旅の再開といこう。まずは、高輪の大木戸を出ますかね。」
暑さのせいなのか、気だるさを感じつつも、歩を進める旅人二人であった。


--1章2節へ続く--

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